この度、初めて記事を寄稿させていただく、メタバース小説家sunと申します。
BOOTHにて無料頒布している、メタバース旅行雑誌Platform(https://platform-vr.booth.pm)の文章担当でもあり、当サイトで雑誌の広告をいただいたご縁で、ネオスサーチを知りました。
今回は私が初めてNeosVRにて執筆した小説と共に、モチーフとなったVtuberやワールドについてご紹介致します。
前置き
Vtuber金熊きけんさん
『2分で分かる金熊きけん⚠』
私はVRChatで金熊(かねぐま)きけんさんと出会ったことがキッカケで、NeosVRを始めました。
Neos内においては、初心者案内、紹介動画などで有名な方です。
NeosVR日本語Wikiのトップページや、有志が作成したチュートリアルワールドには、きけんさんのNeos案内動画が掲載されています。
フランクで気さくな性格に引き込まれ、鬼という古来の存在でありながらVRや現代ファッションに適応した姿が小気味よい、大変魅力のあるVtuberさんです。
初対面にも関わらず私はすぐに打ち解け、私が出張小説(詳細は後述)で執筆させていただくことになった際、Neosに案内していただけました。
その際、頼り甲斐のある堂々とした振る舞いに感銘を受けたので、小説内ではそこを強調する造りにしました。
また小説内のきけんさんの設定は、デビュー当時の動画で語られた情報を参考にしています。
舞台はジオメトロポリス
『ネオスサーチ!:Geometropolis ジオメトロポリス』
『Geometropolis ジオメトロポリス』はMMC22(The Metaverse Maker Competition 2022)にてワールド部門優秀賞となったワールドです。
制作チームのNEVIS Creation Groupには、きけんさんも参加していました。
私が初めてNeosに訪れた際、きけんさんに案内していただいたワールドの一つでもあります。
ジオメトロポリスに訪れたならば、まずはアンダーグラウンドな雰囲気のバーが出迎えます。
階段を登って地上に上がると、そこに広がるのはサイバーパンクな都市です。(小説内ではこの場所から開始しています)
そこからエレベーターで摩天楼を登り、高速ゴンドラで移動し、最後に頂上の展望台で都市全体を見下ろす。
ワールドを移動と共に、末広がりの世界を思わせる壮観さが素晴らしいです。
小説内でも、都市の光景が広がると共に、VRの世界や可能性が広がっていくことを暗示させる構成になりました。
VR上でリアルタイムに小説を書く出張執筆
出張執筆とは、モチーフになる人物、イベントのキャスト、そしてゲストで訪れた方々から、リアルタイムでヒアリングしながら執筆する小説です。
イラストレーターによるライブ配信の小説版、と言えば分かりやすいでしょうか?
NeosVRでは動画プレイヤー(TopazChat)の画面を自由に動かせます。
その為にワールドを駆け巡りながら、場所を選ばず執筆が可能です。
さながら、紙や筆を持って方々を駆け回る、古の吟遊詩人のように。
以下の小説は、きけんさんと共にジオメトロポリスを駆け巡りながら主張執筆しました。
冒頭だけは事前に執筆しましたが、残りはワールド内で書き上げました。
茜(あかね)というオリジナルキャラクター以外は、きけんさん含め実際にいらっしゃるNeosユーザーです。
出張執筆中に同セッションに訪れた方々を、飛び入り参加で登場させました。
かなり多くの人がいらっしゃった上、小説のテーマが「Neosの魅力を語る」という内容だったため、非常に賑やかな小説に仕上がりました。
2022年の3月27日に書いたので、ゲストの方々に「Neosの魅力を伝えて欲しい」とお願いしたところ、8月中に開催されたNeos Festa 4を宣伝するセリフなどをいただきました。
小説『鬼斧神工(きふしんこう)』
「あの、鬼がこんな異界に来ても……元の世界に帰れるのかしら?」
薄暗い酒場(バー)の中で、不安げに言った女性の鬼の名前は茜。彼女は外へ続くドアを通り抜けると、壁に描かれたグラフィティを、落ち着きなく見回した。
ここはVR世界の中にあるサイバーパンクなワールド、ジオメトロポリス。広場に出た茜は、細い輪郭で構成されたネオンアートの数々に目を奪われる。闇夜さえ貫く程に高く聳えた半透明の円筒――つまりはエレベーターに釣られて天を仰ぐ。摩天楼から見下ろした夜景が宙に浮かんでいて、文字通り天地がひっくり返ったかのよう。
人間にとっての幽世(かくりよ)がそうであるように、鬼にとってはこの異世界が恐ろしく思えるだろう。ドラム缶や廃車で燃え盛る、消えることのない炎に、地獄の片鱗を見出してしまう。
鬼であることを隠し、人間と交わって生きる茜でも、気が狂いそうな空間だった。二、三歩前を先行する、同じ種族である鬼の案内がいなければ、とっくに現実世界に逃げ帰っていたに違いない。
「大丈夫だって! わからないことがあったら、何でも教えるから、任せとけって」
そう言った者の名前は、金熊きけん。性別不詳の鬼は、振り返ると鋭い目つきで不敵に笑った。きけんは人里を闊歩して人間どもを平伏させる、鬼親分の如く威風堂々さが、茜に安心感を齎す。額から出る紅の角が、掲げた刀のように光を照り返していた。
きけんのファッションはヘソ出しホットパンツで、ファー付のジャケットには威厳の片鱗が垣間見える。炎をイメージしたニーハイソックスや、ビビッドで情熱的なグローブが、力強い印象を与える。尖った左耳に付けたイヤリングは、刺々しくも繊細、中性的なカッコよさだ。
きけんが「よっと」と言いながら、赤く四角いボタンを押した。大きな扉が開かれ、幾百尺あるとも知れぬエレベーターに二人で乗る。そうしてエレベーターが上昇するや否や、ネオンアートが米粒のように小さくなり、浮遊する摩天楼から発せられる照明が鮮明になる。
昨今の人間は、宇宙に進出せんと躍起になっているが、斯様な高鳴りに後押しされているのやも知れぬ。茜は片手を胸に当てながら思った。遥か遠くにあったはずの新天地が、手が届くところに。不安が払拭された茜は、きけんに尋ねた。
「そもそも、この世界ってどういうことができるの?」
今日はきけんから、この『異界』で生きる術を教わる約束だ。きけんも含め、現代の鬼は正体を隠し、人間に混じって生きている。であれば、人間の流行を研究するのは、必須事項と言えよう。それに、この世界ならば妖術を堂々と使っても、恐れられるどころか持て囃されるとのこと。彼女としても、VRの可能性に期待しているのだ。
「そうだな、例えばだけど――」
きけんが言うと同時に、エレベーターが停止した。扉が開かれると、軽快な電子音楽が鳴り響く部屋に歓迎される。突き当りが見えないほど、遠くまで伸びた回廊は、目の前にある人力馬車に似たものに搭乗して行き来できるのだろうか?
「こういうのはどう?」
きけんがそう言うと、景色に見惚れていた茜が我に返る。横を向くと、きけんは両の親指と人差し指で直角を作ると、パシャリと音が響いた。と、きけんの両手の中に茜が映った写真が生まれた。
「これはね、フィンガーフォトって言うんだ」
茜はきけんから受け取った写真を、不思議そうに見つめていた。
「こんな簡単に写真が撮れるんですね……」
茜が感慨深く呟いていると、浄結(じょうけつ)くもりという、大きい獣耳を持ったミニスカートの女の子がやってきた。
「私も入りたい!」
と、昼寝に誘われるような和やかな声が聞こえてきた。
「じゃ、一緒に撮る?」
そう言うときけんは、今度はより大きな四角を指で作った。それはきけんの手元を離れると、上でカウントダウンがされる写真のカメラが生まれた。
「ほら、早く並んで!」
きけんは茜を軽く手で押しながら、くもりと共に茜を挟むように三人で並んだ。 再びパシャリと音が鳴ると、三人でピースをしているフレンドリーな写真がその場で生まれた。
「あっ、ありがとうございます……!」
茜は喜びつつも驚いた。きけんもそうだが、鬼の角を堂々と晒け出しているにも関わらず、くもりが怖がることなく笑顔で近づいて来たからだ。
「写真撮るなら、もっと良い場所あるんだけど、行かない?」
きけんはゴンドラを指し示す。フォニクスという、緑色のイカしたサングラスを掛けた男性が、ゴンドラの中から手を振ってくれた。襟元に付けているのは、生命の樹を象ったネックレス。夕陽にも似たオレンジ色の光は、機械を超越した温かみがあった。
茜やくもりもゴンドラに搭乗すると、フォニクスはタッチスクリーンを押してゴンドラを駆動させた。彼が作った開放感のあるゴンドラは、壁を走る照明を追いかけるように、果ての見えない通路を疾走する。ふと茜は、風を切る心地よさを感じた。それは現実世界のスポーツカーすら上回る、爽快な体験だった。
やがてゴンドラが目的地に着くと、また別のエレベーターが聳え立っていた。壁で明滅する無数の閃光を、茜は金銀の鱗を持つ竜と邂逅したように、神妙な面持ちで見つめていた。
「あ、トラゾちゃんじゃん!」
と、きけんはエレベーターを見上げている、虎の赤ちゃんのような可愛らしさと、鬼とはまた違った魅力のある二本角が生えた、黒い手作りパーカーを着た芸術家。茜は彼女を怪訝な面持ちで見る。
「トラゾちゃん、茜ちゃんに写真を見せてあげたら?」
きけんが歩み寄りながら言うと、トラゾは「うん、どうぞ」と言って、興味深い画像を見せてくれた。それはVRアーティストであるトラゾが作ったワールドの写真。
「綺麗……!」
幾何学的な紋様、であるのに天然の奇跡を思わせるような、滑らかな曲線美。時に黄金色に、時に翡翠色に輝く紋様は幾千にも連なり、夢の世界に封じ込めたように海の島を取り巻いている。
「これね、亀に乗ることも出来るんだ」
茜の隣から、にゅっときけんの白い手が伸びた。握られている写真は、遠い昔話に出てくるかのように、きけんが空飛ぶ大きな亀に乗って、手を振っている画像であった。
寄り道も束の間、きけんたちは第二のエレベータに乗った。二人っきりだったのが、旅は道連れとばかりに、倍以上の人数に増えている。
「皆さん、とても優しく案内して下さいますね……ありがとうございます」
エレベーターの中央に立った茜は、きけんたちを見回しながら言った。鬼の自分は怖がられないだろうか。そんな不安は完全に吹き飛んでいた。獣人などが平然と闊歩しているこの異世界で、陣貝であることを恥じる必要が、果たしてあるのだろうか?
やおらにエレベーターが上昇を始める。ひっくり返った地面こと、浮遊する都市群から脱出するように、縦に伸びる長いトンネル。少しして、辺りが空よりも暗い闇に包まれると、計算された機能美を内包する、サイバーな星々が茜の前で煌めいた。
昇天した。人の世から解脱したように。ネオンや摩天楼で埋め尽くされた都市群の果てには、手を伸ばせば掴めそうな程に色濃い星雲が漂う有頂天であった。無尽蔵に降り注ぐ流れ星、永劫の刻を感じさせるような。
「ここ、良いっしょ」
きけんが愉快そうな笑みを浮かべながら言った。誰ともなく、塔の頂上にある展望台、そのガラス張りの床の端に移動していく。茜は、これは現実世界ではないと自分自身に言い聞かせながら、高所恐怖症すら発症しそうなほど臨場感のある場所を、慎重に歩いて行った。
「VR世界を楽しんで貰いたいからね。皆で集合写真撮ろう」
きけんが呼びかける間にも、また新たな人々がやって来る。茜を中央に据える様にして、まるで事前打ち合わせしていたかのように、幻想的な宇宙を背に撮影準備をする。
「ちょっと待ってくださいね」
うすたびと言う名のニャンタウロス――いわゆる猫のケンタウロスの女の子が、目の前に手書きのイラストを並べていく。きけんの顔を可愛らしく描いたイラストは、このVR上で実際に描かれたものらしい、
負けじとなでやまと言う、頭に日本刀を乗せた全身緑色のエイリアンがイラストを並べた。なんと、それは茜の顔であった。いつの間にか描かれていた茜の絵を、本人は驚き呆れながら受け取った。
「う、嬉しい……!」
こういう『妖術』だったら、茜にも使えるかもしれない。茜はこの異世界で、いかなるものを創ろうかと考える。数舜、思案に耽っている内に……今日一番の巨大なフィンガースナップで、集合写真が撮影された。
「どう? 楽しい?」
撮影を終えると、きけんが茜に問いかける。
「はい……! もっと沢山、VRを知りたいです!」
茜が言った直後、ここぞとばかりに、レニウムが顔を除いてきた。お人形のように可愛らしく、それでいてシックな服に身を包んだ彼女の、左腕に取り付けたツールチップの数々に目を奪われた。後で聞いた話だが、それらはVR上でプログラミングする為の道具らしい。
「Neos Festa4って言うイベントを、今年8月にやります。遊びに来てね!」.
レニウムは空中に動画プレイヤーを作り出した。それは前回のNeos Festaの宣伝動画であり、「その簿でモノを作れて、その場で遊ぶことができる」点が強調されていた。VR初心者の茜でも、実際にモノ作りに携わりたいと焚きつけるような、面白さに溢れている。
「私にも、皆さんのような素敵なモノが作れるかな……?」
茜が僅かに俯きながら言うと、きけんは口角を上げながら言う。
「怖がらずに一歩踏み出せばいいと思うよ」
同意するように、その場にいる全員が頷いたり、万歳するようなポーズを取ったりした。
茜は密かに思う。これが人間が作った異世界であるというのならば。これだけの傑作を生みだせる、この世界そのものが、鬼斧神工……鬼神が斧をふるって作ったような、素晴らしい技術の結晶に違いないと。
さいごに
手前味噌ではありますが、出張執筆には主に二つの強みがあると考えております。
一つは、書いた文章をその場でご確認いただける。
例えば私が小説内で「私はここが凄いと思う!」というセリフを書いたとします。
モチーフになった方、言い換えればクライアントの方にチェックいただいた場合、「『私』を『わたし』に修正して欲しい!」とか、「『思う』じゃなくて『感じたよ~!』に修正して欲しい!」と仰るかも知れません。
私としても、できる限り当人らしいセリフや言動に近づけたいので、このようなフィードバックを受けるのは嬉しいです。
しかしながら、小説の一字一句まで目を通すのは、私もクライアントも非常に負担が大きいです。
その上テキストSNS上での通信だと、どうしても時間が掛かってしまいます。
だからこそ、VR上で少しずつ文章を形作りながら、リアルタイムでフィードバックをいただけるこの形式は、一つの理想形だと考えております。
クライアントのご意見やご要望を聞きやすく、反映しやすい点において。
もう一つは、場の雰囲気を利用できる。
以下の話は主観に依存した考察とはなりますが、出張執筆の開始直後よりも、ある程度時間が経って場が盛り上がってきた方が、クライアントやゲストの皆様からフィードバックを多くいただけます。
また、クライアントやゲストとの会話によって、新しいアイディアが生まれる場合もしばしばあります。
総じてアドリブによって、当初のプロットからは大きく飛躍した、それでいて小説に登場した皆様の実態により近づいた、唯一無二の小説に出逢えます。
この臨場感を最大限に活かすため、冒頭の情景描写と大まかなプロットだけを予め決めて、全てクライアントたちとのやり取りしながらのアドリブで出張執筆を行います。
緻密に文字を積み重ねていく、所謂普通の執筆方法ならではの強みも重々承知しておりますが、現場の生々しい勢いやライブ感を封じ込める出張執筆を成功させるには、その場にいらした皆様のご協力が不可欠です。
まだまだ改善の余地はありますが、連想ゲームを始めるためのお題すらない真っ新な状態でもなく、ほとんど私が書き上げて想像の余白が少ない状態でもない、上記の塩梅が丁度よいと考えております。
動画プレイヤーを持ち運べるNeosVRは、あらゆるVRSNSの中でも特に出張執筆の相性が良いと自負しております。
私はNesoFesta4のアンバサダーとして、出張執筆を何度も行いましたが、そのようにVRのイベントを盛り上げたり、ユーザーの皆様の魅力を引き出せるお手伝いが出来れば幸いです。